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刀 (太刀銘)造大慶直胤(花押)
(たいけいなおたねつくる)
天保六年仲春(一八三五年)
Katana:Taikei Naotane
新々刀・武蔵 江戸末期 最上作 拵え付き
第六十一回重要刀剣指定品(平成二十七年)(二〇一五年)
刃長：71.4(二尺三寸六分弱) 反り：2.2 元幅：3.03
先幅：1.97 元重ね：0.71 先重ね：0.53 穴1
鎬造り、鎬高め庵棟低い、中切っ先。 表裏共に棒樋を丸留めにし、その下に表は梵字と護摩箸、裏は三鈷柄附き剣有り。 鍛え、小板目に板目を交え、所々流れ心に良く詰み、地色明るく、地沸良く付き、地景入り、飛び焼き風の湯走り掛かり、地鉄概ね精良。 刃文、互の目乱れを主体に、小互の目、丁子、尖り風の刃を交え、刃縁荒沸良く付いて匂い深く明るく冴え、刃中金筋、砂流し掛かる。 帽子、湾れ調で沸付き盛んに掃き掛け返る。 茎生ぶ、先栗尻、鑢化粧筋違い。 銅に金着せハバキ。 時代最上研磨。 白鞘入り。
上打ち刀拵え(幕末期 全長103.2 柄長26 鞘 焦げ茶の呂鞘 柄巻、白、緑、黒、紫の上亀甲 柄 焦げ茶鮫研ぎ出しに薄茶裏革柄巻 縁頭、鉄地鋤出し彫、鬼図 目貫容彫色絵、漁師の図 鍔 銘東巌 石黒是常花押 鉄地隅切木瓜形、鋤出高彫、滝に虎図)付き。
【コメント】
大慶直胤の重要刀剣、同工最良期の『天保打ち』、健全無比、古作相州物に見紛う程の地刃の出来、『復古造法論』を体現した傑作です。
直胤は荘司箕兵衛と言い、安永七年(一七七八)、出羽国山形に生まれ、『大慶』と号しました。寛政十年(一七九八)頃、同郷の水心子正秀を頼って江戸へ出て門下に入り、一頃は日本橋浜町秋元家下屋敷内の正秀宅に身を寄せています。文化初年(一八〇四～一八)頃に独立すると、師と同じく、秋元家に仕え、日本橋堀江町、芝白銀町、下谷御徒町などに住しました。文政四年(一八二一)には『筑前大掾』、嘉永元年(一八四八)には『美濃介』へと転じ、師の提唱した『復古造法論』を最も良く実践し、師同様に多くの門人を輩出しました。
年紀作に見る活躍期は、寛政末年ころから安政三年頃まで、翌同四年(一八五七)、七十九歳にて没、師正秀、源清麿と共に、『江戸三作』と呼ばれました。
作風は、五ヶ伝全てを巧みにこなし、山城来、大和保昌、備前景光、相州正宗、相伝備前長義、美濃大志津写しなどの傑作が残されています。
銘振りは、初期は、『大慶直胤』と太鏨の草書風に切り、以降は、『大慶荘司直胤』、『出羽国住人大慶荘司直胤』、『荘司筑前大掾大慶直胤』など、細鏨の楷書で花押入り、天保頃からは、『造大慶直胤』、『荘司美濃兵衛藤原直胤』、『荘司美濃介藤直胤』など、太鏨の楷書で花押が入ります。五十歳を過ぎた天保頃より、三度の長旅に出て各地で鍛刀しており、それぞれの地名を茎に刻印、又は切り付け銘として残しています。
刻印には、『東(江戸)』、『都(京都)』、『ナニワ(大坂)』、『イセ(伊勢)』、『シナノ(信濃)』、『イツ(伊豆)』、『ヒッチウ(備中)』、『サカミ(相模)』、『エンシウ(遠江浜松)』、『チハ(千葉)』等々があります。
本作は、平成二十七年(二〇一五)、第六十一回の重要刀剣指定品、天保六年、同工五十八歳の頃、得意とした相州伝の中でも傑出した出来映えを示す名刀です。
寸法二尺三寸六分弱、腰反りやや深めに付いた美しい太刀姿を示しており、地刃健やかで、研ぎ減りは微塵も感じません。
本作は、いわゆる『天保打ち』と呼ばれるもので、一般的にも高く評価されています。実際この頃の作には、名品が多く残されており、同工重要刀剣指定品の内、実にその半数以上が『天保打ち』であることもその裏付けかと思われます。
互の目乱れを主体に、小互の目、丁子、尖り風の刃を交えた焼き刃は、刃縁荒沸良く付いて明るく冴え、刃中金筋、砂流し掛かり、地には飛び焼き風の湯走りが多数見られます。帽子も烈しく沸付き、金筋、砂流しが掛かって強く掃き掛けるなど、同工相州伝の真骨頂とも言える出来映えを示しています。
特に刃縁の沸の輝きと刃中の匂いの深さ、明るさは大きな見所で、地と刃の境目が判然とせず、柔らかく溶け込んで行く感じは、新々刀期の刀工にはまず見られません。
これ位古作に迫る刃文を再現出来るのは、師を除いては直胤か清麿ぐらいでしょう。やはり『江戸三作』と評されるのは伊達ではありません。
表裏の彫り物、添え銘はありませんが、精巧な彫り口からして、弟子の本庄義胤によるものと思われ、幕末期の大変立派な外装も付属しています。
『刀はすべからく鎌倉期へ回帰せよ。』と提唱した師の『復古造法論』が見事に体現された会心の一振り、大慶直胤の『天保打ち』自信作、同工相州伝の最高峰であると確信する名刀です。
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