太刀 波平行安(生ぶ無銘)
(なみのひらゆきやす)
Tachi:Naminohira Yukiyasu
古刀・薩摩 鎌倉末期~南北朝初期 拵え付き
第二十六回特別重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り

刃長:82.3(二尺七寸二分弱) 反り:4.2 元幅:3.41 先幅:2.22 元重ね:0.74 先重ね:0.45 穴1
鎬造り、鎬尋常庵棟高め、中切っ先やや詰まり気味となる。 鍛え、板目に杢目、所々流れ肌を交えて上品に肌立ち、総体的に白け心があり、地沸厚く付き、地鉄概ね精良。 刃文、上半直刃調で、下半湾れ調となり、佩裏腰元に小乱れ風の刃交じり、刃縁匂い勝ちに小沸付き、刃中葉、小足入り、断続的に沸筋走り、細かな金筋、砂流し掛かって、刃区上で焼き落としとなる。 帽子、直調で、先は表小丸、裏は焼き詰め風となる。 茎生ぶ、先刃上がり栗尻、鑢筋違い。 銅に金着せ二重ハバキ。 時代最上研磨。 白鞘入り。
打ち刀拵え(幕末期 全長108 柄長23 鞘 黒の呂鞘 下げ緒、薄茶に鶯 柄 親鮫に黒塗り 縁、素銅石目地の樋形縁 頭角 目貫、赤銅容彫、銀杏図 鍔 素銅地阿弥陀鑢図、無櫃 素銅切羽)付き。
【コメント】
波平行安(生ぶ無銘)の特別重要刀剣太刀、鎌倉末期乃至(ないし)南北朝初期作、古波平中最も健全と鑑せられる感動的な国宝級の名刀です。
波平一派は、古伝書等によると、平安後期、大和から薩摩国谷山郡波平の地に移住したと伝わる正国を祖として、江戸末期まで千年余り続く一大流派です。
正国の子、行安が跡を継いで以降、一派は『行安』或いは『安行』を嫡流的に継承し、且つ門人の多くが、『安』や『行』の字を通字としています。
南北朝を下らない同派の作を古波平、室町期以降の作を波平と総称、更にその中でも室町末期のものを末波平と細分化して呼ぶのを慣例としています。
作風は、一派皆一貫して大和伝を墨守しており、鎬筋の高い造り込み、総体的に流れて柾心のある鍛えに、白け映りの立つ地鉄、波状に綾杉風の肌合いが出る場合もありますが、月山や下原鍛冶のように、判然とした渦巻き型にはなりません。刃文は、焼きの低い穏やかな直刃を主体とし、ほつれ、打ちのけ、二重刃掛かり、刃縁は潤み勝ちとなります。室町末期頃になると、備前伝、相州伝に影響を受けた乱れ刃も見られるようになります。
最も特徴的なのは、生ぶ姿であれば、焼き刃が刃区上で焼き落としとなるものがほとんどで、室町期の作でも時折見られます。この焼き落としは、同じ九州古典派と呼ばれる三池光世、豊後定秀、行平等にも共通するものがあります。
本作は平成三十年(二〇一八)、第六十四回の重要刀剣指定品で、令和二年(二〇二〇)、第二十六回の特別重要刀剣に指定された生ぶ茎無銘の大太刀です。
『波平行安』の極めが付されており、『時代鎌倉末期乃至(ないし)南北朝初期』とあります。
寸法二尺七寸二分弱、切っ先やや詰まり気味、身幅広く、身幅に比して鎬幅極端に狭く、輪反り深々と付いた何とも力強い太刀姿を示しており、驚くような地刃の健全さを誇る素晴らしい一振り、手持ちズシンときます。
板目に杢目、所々流れ肌を交えて上品に肌立つ地鉄は、総体的に白け心があるなど、古作九州物の特徴を良く示しており、中でもこの軟らかみがあってネットリとした肌感は、古波平ならではの美しい鍛えです。
上半は直刃調で、下半は湾れ調となった焼き刃は、佩裏腰元に小乱れ風の刃が交じり、刃縁匂い勝ちに小沸付いて所々やや潤み心、刃中葉、小足入り、断続的に沸筋走り、細かな金筋、砂流し掛かって、刃区上で焼き落としになっています。
刃中を貫いている独特な沸筋は見所の一つ、焼き落としも生ぶ姿ならではです。
これまで古波平の作で、特別重要は本刀を含め三振り、重要美術品二振り、重要文化財四振りありますが、無銘は本刀のみです。
日刀保の審査基準によると、『特別重要刀剣は、重要刀剣の中で、更に一段と出来が傑出し、保存状態が優れ、国認定の重要美術品の上位に相当すると判断されるもの、若しくは国指定の重要文化財に相当する価値があると考えられるもの。』としていることからも分かるように、本作は無類の健全さと出来の良さを誇る重要文化財に相当する極上品であり、且つ無銘故に、おそらく前述した指定品の内、本刀が最も健全かと思われます。もし在銘なら重要文化財以上確定ではないでしょうか。万が一、銘が埋もれているかもしれませんので、現在、銘を発掘中です。
探山先生鞘書き、図譜共に、『地刃に古波平の特色が顕現されており、健全なる保存状態と出来映えより、同派を代表する行安と鑑せられる滋味掬(じみきく)すべき(何とも言い難い豊かな味わいを感じるの意)最上の一振りである。』という内容の記載があります。
こんな素晴らしい波平行安は見たことがありません。幕末期のオリジナル外装付きです。
これは大変な一振りが出て来てしまいました。今後も末永く受け継がれて行くべき日本の宝です。




