大小
刀 大和国住月山貞利彫同作(花押)
(やまとのくにじゅうがっさんさだとしほりどうさく)
昭和六十二年十一月吉日
脇差し 大和国住月山貞利彫同作(花押)
(やまとのくにじゅうがっさんさだとしほりどうさく)
昭和六十二年十一月吉日
Katana・Wakizashi:Yamatonokuniju Gassan Sadatoshi Horidohsaku
現代・奈良
無鑑査刀匠
専用桐箱付き(人間国宝月山貞一箱書き有り)
刀 刃長:71.6(二尺三寸六分強) 反り:2.0 元幅:3.37
先幅:2.39 元重ね:0.75 先重ね:0.56 穴1
脇差し 刃長:42.3(一尺四寸弱) 反り:0.7 元幅:3.45
元重ね:0.62 穴1 【刀】
鎬造り、鎬庵棟尋常、中切っ先。 表棒樋に珠掴み昇り龍の彫り、裏棒樋をハバキ下で掻き流す。 鍛え、やや沈み勝ちに綾杉模様のうねる地鉄は、細かな地沸が付き、繊細な地景が肌目に絡んで地鉄精良。 刃文、直調の焼き刃は、刃縁に小乱れ、小足入り、匂い口も潤むように明るく締まる。 帽子、直調で先強く掃き掛け返る。 茎生ぶ、先栗尻、鑢化粧筋違い。 銅に金着せハバキ。
【脇差し】
平造り、三ッ棟尋常。 表は棒樋に添え樋、草の倶利伽羅 裏は棒樋に添え樋。 鍛え、小板目詰んだ精良な地鉄は、細かな地沸、地景をふんだんに配した鍛えで、地鉄精良。 刃文、直調の焼き刃は、刃縁に繊細な小沸が付き、刃中に直足が間断なく入り、匂い口は潤むように締まり気味となる。 帽子、直調で沸付いてやや大丸風に返る。 茎生ぶ、先栗尻、鑢化粧筋違い。 銀に金鍍金ハバキ。 時代研磨。 白鞘入り。
【コメント】
今人間国宝に最も近い刀匠、無鑑査月山貞利による注文打ち大小、大は綾杉伝、小は山城伝、見事な月山彫りによる珠掴み昇り龍、草の倶利伽羅、父である人間国宝月山貞一の箱書きまで付属した完品の傑作です。
貞利は月山清と言い、昭和二十一年、人間国宝月山貞一の三男として大阪に生まれました。父に学び、昭和五十年に新作刀展で高松宮賞を受賞して以来、文化庁長官賞、毎日新聞社賞、名誉会長賞、寒山賞などを複数回受賞、昭和五十七年には無鑑査に認定、平成七年、父貞一没後は月山家の棟梁となり、平成十五年には奈良県指定無形文化財保持者認定されました。伊勢神宮式年遷宮奉納太刀を始めとする数々の奉納刀、米国ボストン美術館での刀剣展、月山記念館開設等々、八百年続く名門の棟梁として、一派の繁栄並びに刀剣界の発展に尽力し続ける名匠です。 本作は昭和六十二年、同工四十一歳の頃の作、銘文も全くの同一で彫り同作、注文打ちによる大小揃いの優品で、勿論登録証も連番となっています。
大は寸法二尺三寸六分でガシッとした造り込み、家伝の綾杉伝を以て鍛えられた一振り、やや沈み勝ちに綾杉模様のうねる地鉄は、細かな地沸が付き、繊細な地景が肌目に絡んで精良に詰み、直調の焼き刃は、刃縁に小乱れ、小足入り、匂い口も潤むように明るく締まり、地の綾杉が刃中に絡んで、多種に渡る沸の変化を示しており、見応え十分です。表の腰元には見事な珠掴み昇り龍の月山彫りがあり、しなやかで躍動感のある龍を濃厚な彫り口で表現しています。
小は寸法一尺四寸弱、三ッ棟の雄壮な平身脇差しで、小板目詰んだ精良な地鉄は、細かな地沸、地景をふんだんに配した鍛えで、直調の焼き刃は、刃縁に繊細な小沸が付き、刃中に直足が間断なく入り、匂い口は潤むように締まり気味となっています。表の草の倶利伽羅が、三鈷柄附き剣ではなく、爪附き剣に巻き付いた意匠は珍しく、備前彫り、相州彫り、肥前彫りなどの特徴を合わせたような素晴らしい作で、絶妙のバランスで腰元に添えられています。
大小共に直刃調の出来ですが、地刃の働き、彫り物がそれぞれ異なるため、大変見応えがあり、地刃には疵もありません。
付属の専用桐箱には『大刀 先祖伝来綾杉以鍛法 小刀 山城伝以鍛法 太阿源貞一誌』と、父である人間国宝月山貞一が自ら誌した貴重な箱書きがあります。
ごまかしの利かない直刃に於いて、その高い鍛刀技術、彫技を存分に示した、無鑑査月山貞利の秀逸なる大小、父である人間国宝月山貞一の箱書きもピシッと残っていますので、今後益々価値が上がるものと考えられます。
今人間国宝に最も近い刀匠、無鑑査月山貞利による、注文打ち完品の大小、これは見逃せない優品です。