短刀 武蔵大掾藤原忠廣
(むさしだいじょうふじわらのただひろ)
Tanto:Musahidaijo Fujiwarano Tadahiro
新刀・肥前 江戸初期 最上作 最上大業物
保存刀剣鑑定書付き
本阿弥日洲鞘書き有り
令和四年度(二〇二二)『現代刀職展』刀剣研磨平作り部門努力賞受賞作
刃長:29.6(九寸八分弱) 反り:なし 元幅:2.91 元重ね:0.81 穴1
平造り、庵棟尋常で重ね厚い。 鍛え、小板目肌良く詰み、板目、細かな流れ肌を交えて上品に肌立ち、沸映り立ち、地沸微塵に厚く付き、地景繁く入り、地鉄精良。 刃文、直湾れ調で、刃縁小沸良く付いて明るく締まり気味となり、ほつれ、二重刃風の沸筋頻りに掛かる。 帽子、直調で先掃き掛け小丸に返る。 茎生ぶ、先入山形、鑢切り。 銅に金着せ二重ハバキ。 最上研磨済み。 白鞘入り。
【コメント】
初代忠吉は、橋本新左衛門と称し、元亀三年生まれ、佐賀藩主鍋島勝茂にその鍛刀技術を認められ、藩工に任じられました。慶長元年、二十五歳の時、藩命により、一門の専属彫り師宗長と共に京の埋忠明寿門下に入り、慶長三年に帰国すると、佐賀城下へ移り、本格的な作刀が始まります。
銘振りは、慶長十九年頃まで『肥前国忠吉』、以降元和末年頃まで『肥前国住人忠吉作』、寛永元年頃からは『武蔵大掾藤原忠廣』と切り、源姓から藤原姓へ改めています。寛永九年八月、六十一歳没。
作風は、山城来一派を思わせる直刃を本位としており、美しい肥前小糠肌は新刀随一とされます。
新刀最上作、最上大業物鍛冶としても名高く、人気実力共に一門の最高峰鍛冶です。
本作は、初代晩年の忠廣銘による貴重な短刀、年紀はありませんが、銘字の横棒の逆鏨が特に強調された銘振りは、寛永五、六年に多く見られる銘振りです。
寸法九寸八分弱、身幅しっかりとして、重ねの厚い力感溢れる短刀で、地刃すこぶる健全、手にした時の重量感が違います。
地景が繁く入った精良な地鉄、細直刃湾れ調の焼き刃は、刃縁にほつれ、二重刃風の沸筋が頻りに掛かる出来で、おそらくは当麻辺りを狙った大和伝の作と鑑せられます。
地に少し緩みがありますが、地刃の鍛えは見事、特別保存までは100%保証です。
本作は岐阜関の平井隆守氏による最上研磨が施されており、令和四年度(二〇二二)、『現代刀職展』の『刀剣研磨平造り部門』に於いて努力賞を受賞した逸品です。平井氏は、昭和四十八年(一九七三)生まれ、『現代刀職展』では特賞を始め、毎年受賞し続けている名人です。
初代忠吉の貴重な短刀、且つ最上研磨により地刃が冴え渡った素晴らしい仕上がりになっています。これは見逃せません。