脇差し 一文字(無銘)
(いちもんじ)
Wakizashi:Ichimonji(Mumei)
古刀・備前 鎌倉中期 拵え付き
第二十六回重要刀剣指定品
刃長:49.5(一尺六寸三分強) 反り:0.9 元幅:2.84
先幅:1.97 元重ね:0.59 先重ね:0.43 穴2(内1埋)
上脇差拵え(江戸後期 全長69 鞘 焦げ茶に研ぎ出し鮫 こじり、栗型、鯉口は黒塗 下げ緒、濃い紫と卯の花色に模様あり 柄 細かな鮫の黒塗に黒革柄巻 縁、赤銅鋤出彫、縁金色絵、唐草に鹿図 頭、角 目貫、金色絵鳳凰図 鍔 赤銅魚子地木瓜形、高彫、金点象嵌、片櫃金埋、海草に貝の図 厚い素銅地金色絵、香刻み切羽)付き。
【コメント】
福岡一文字の重要刀剣脇差し、同派最盛期に於ける華美な一文字丁子の典型作です。
一文字派は、鎌倉初期に興り、以後南北朝期に掛けて福岡、吉岡、片山、岩戸の地に栄えて多数の名工を輩出しました。中でも福岡一文字は最も歴史が古く、事実上の祖である則宗を始め、代表工には延房、宗吉、助宗、行国、助成、助延、信房などがいます。福岡でもこれら初期の刀工は、『古一文字』と呼ばれ、それ以前までの古備前派の作風を踏襲し、直調に小丁子を交えた穏やかな作風を基本としました。
鎌倉中期になると、同派は最盛期を迎え、華麗で絢爛たる丁子乱れの作風を展開、この期を以て、後世まで最高芸術と評される『一文字丁子』の完成を見ることとなります。代表工には助真、吉房を筆頭に、吉平、吉用、吉元、助宗などがいます。中でも助真は、後に相州鎌倉へ移住、鎌倉鍛冶の開拓者になったと伝えており、『鎌倉一文字』の呼称があります。
また同派からは後鳥羽院御番鍛冶を七名も輩出されており、当時の一派の実力を窺い知ることが出来ます。
本作は大磨り上げ無銘ながら『一文字』と極められた優品、昭和五十四年(一九七九)、第二十六回の重要刀剣に指定されています。 寸法一尺六寸三分強、反りやや浅めに付いた上品な姿で、地刃健全な優品です。
小板目に小杢目を交えて良く詰み、上半流れ肌が上品に肌立つ地鉄は、丁子映り判然と立ち、丁子乱れを主体に、袋丁子、小互の目、小丁子を交えた刃文は、刃中足、葉入り、繊細な金筋、砂流しが掛かっています。
格調高い上品な華やかさを備えた丁子刃は、個銘までは極め難いものの、盛期の福岡一文字らしい典型作です。
図譜には、『この脇差しは、出入りのある華やかな丁子乱れも刃文で、匂い深く、地には乱れ映りが立ち、鎌倉中葉頃の一文字派の作と見られる。』とあります。
付属の外装は、江戸期の上質な作、洗練された上品な趣のある研ぎ出し鮫鞘等、刀身に相応しい逸品です。
盛期に於ける福岡一文字の典型的な作風を堪能出来る優品、外装と共に見過ごせない名品です。