太刀 国安(古備前)
(くにやす)
Tachi:Kuniyasu
古刀・備前 鎌倉中期
第三十六回重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り
刃長:71.9(二尺三寸七分強) 反り:2.4 元幅:2.86
先幅:1.52 元重ね:0.75 先重ね:0.38 穴2
【コメント】
古備前国安の生ぶ在銘太刀重要刀剣、同工の希少な現存品であると共に、同派中最も華やかな作域を示した典雅なる鎌倉太刀です。
古備前とは、平安末期から鎌倉初期頃に掛けて備前の地に興った刀工群及びその作刀の総称で、鎌倉中期頃までその活躍が見られます。三条宗近と同時代とされる友成、最も現存作の多い正恒を始め、信房、助包、恒光、真恒、吉包、利恒、『備前三平』と呼ばれる高平、包平、助平などがその代表工に挙げられます。
同派の一般的な作風は、腰反り高く踏ん張りがありながら、先へ行って伏せ気味となって小峰に結ぶ太刀姿、板目に細かな地景交じり乱れ映り立つ鍛え、刃文は、直刃か浅い湾れを基調として、刃中小乱れ、小丁子、互の目を交えて、刃沸良く付き、刃中金筋、砂流し掛かる出来が大半で、華やかに乱れるものはほとんど見られません。
本作は古備前国安の生ぶ在銘太刀、寸法二尺三寸七分強、腰反り強く踏ん張りがありながら、先はやや反りが伏せ気味となる優美な太刀姿です。
国安は銘鑑等によると真恒の子孫に当たるとしていますので、正恒の系統になります。活躍期は建長(一二四九~五六年)頃、おそらくは古備前鍛冶として末期の刀工と考えられます。在銘品はほとんど見られず、重要指定品も本作のみです。
小板目が総体的に良く詰んだ地鉄は、杢目を交えて、下半は大模様の肌合いが目立ち、淡く乱れ映り立つ鍛えで、丁子に互の目を交えた焼き刃は、所々僅かに逆掛かる節があり、刃縁匂い勝ちに小沸付き、刃中柔らかな互の目足が繁く入り、匂い口潤むように明るい出来を示しています。
前述したように、古備前系統でこんなに刃が華やかなものは見たことがなく、刀身だけ見れば、一文字一派の作ではないかと思ってしまいますが、国安にはこういう華やかな作があるという貴重な資料にもなるでしょう。
鎌倉中期を下らない生ぶ在銘の太刀など、探すとなると滅多に出てくるものではなく、ましてや古備前鍛冶の希少な現存作ともなれば、もはや見過ごす手はありません。
古備前国安会心の一振り、且つ同派中最も華やかな作域を示した典雅なる鎌倉期の生ぶ太刀、これは名品です。