刀 水心子正秀
天明七年二月日(一七八七)
(すいしんしまさひで)


Katana:SuishinshiMasahide



新々刀・武蔵 江戸後期 最上作
第十七回重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り




刃長:70.0(二尺三寸一分強) 反り:1.7 元幅:3.16
先幅:2.15 元重ね:0.76 先重ね:0.52 穴1




 鎬造り、鎬高め庵棟低い、中切っ先。 鍛え、細かな地沸を敷き詰めた、強靱なる小板目肌は、地色明るく、所々流れ肌を交えて、細美な地景が肌目に絡み、刃縁から黒い沸粒が地にこぼれ、地鉄極めて精良。 刃文、大互の目乱れを交えた見事な濤瀾刃は、刃中互の目足が、刃先に届く程太く長く入り、刃縁には煌びやかな沸粒が付いて、それを包み込むように匂いが充満しており、匂い口は明るく冴え渡る。 帽子、焼き深く小丸に返る。 茎生ぶ、先細り急な刃上がり栗尻、鑢化粧筋違い。 銅に金着せハバキ。 最上研磨。 白鞘入り。



【コメント】
 水心子正秀の重要刀剣、同工初期にしか見られない、越前守助廣の濤瀾刃写し、美しく冴え渡る地刃、本歌に勝るとも劣らない最高傑作です。
 水心子正秀が、『新々刀の祖』と呼ばれる由縁は、大慶直胤、細川正義、角元興等々、二百近くに及ぶ門弟を輩出し、江戸中期以降、沈滞していた刀剣界に、再び上昇気運を生み出した立役者であったこと、また理論と実技の両面に卓越していた同工の著書によって、他の刀匠の鍛刀技術革新に貢献したことなどに因ります。大慶直胤、源清麿と共に『江戸三作』とも称された、新々刀最高峰鍛冶です。
 正秀は川部儀八郎と言い、寛延三年(一七五〇)生まれ、出羽国山形の出身で、始め武蔵国川越にて、下原鍛冶の武蔵丸吉英に学び、『宅英』と銘じ、後に『英国』、安永三年(一七七四)、山形藩主秋元家に抱えられて、『正秀』と改銘し、『水心子』と号しました。文政元年(一八一八)、二代白熊入道に名跡を譲り、『天秀』と改銘、文政八年(一八二五)、七十六歳で没。作は安永(一七七二~八一)初め頃から文政頃まで残されており、その作風は、初期の安永から享和(一八〇一~〇四)頃までは、大坂新刀を狙った、越前守助廣風の濤瀾刃、井上真改風の直湾れ刃、稀に一竿子忠綱風の互の目丁字刃など、焼きの深い、華やかな作が多く、文化(一八〇四~一八)以降は、自らが『刀はすべからく鎌倉期へ回帰せよ』と提唱した、いわゆる『復古刀鍛錬法』の実践から、鑑賞的な華やかさではなく、実用を本位とした、備前伝の穏やかな作風に移行して行きました。稀に見られる彫り物に付いては、自身彫りも多少あるとされていますが、特に優れた作は、弟子の本荘義胤の手によるものとされています。寛政の終わり頃から、茎に見られる特有の刻印は、『日天』の文字を、獨鈷剣の如く図案化したもので、贋作予防として同工が創始したものです。寛政の終わり頃に、初めて見られるようになりますが、続けて刻すようになるのは、文化初年頃からになります。
 本作は天明七年、同工三十八歳の頃の作、大坂新刀最高峰、越前守助廣を写した名品です。常よりも増して、細かな地沸を無限に敷き詰めた、強靱なる小板目肌は、この上なく精良で、地色すこぶる明るく、細美な地景が肌目に絡んで、刃縁から黒光りする沸粒が地にこぼれる、同工の手癖も顕著に見られます。大互の目乱れを交えた見事な濤瀾刃は、刃中互の目足が、刃先に届く程太く長く入り、刃縁に煌びやかな沸粒が付いて、それを包み込むように匂いが充満しており、匂い口は目映い光りを放っています。
 重要図譜には、『この刀はほとんど本歌に迫るものがある』とあり、探山先生鞘書きにも、『本刀は正に助廣写しの精華(真髄)である』とのお言葉も頂いております。同工五十年余りの作刀期間で、その初期にしか見られない最も華麗な作風であり、これまで数多の刀工達が模してきた助廣濤瀾刃の最高峰、感動的に美しい地刃の鍛えを見せています。百聞は一見に如かず、水心子正秀壮年期に於ける、覇気に満ち溢れた最上の地刃をご堪能頂ける名品です。




















【売約済】 商品番号:V-1651 刀 水心子正秀 第十七回重要刀剣指定品 探山先生鞘書き有り

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