短刀 無銘(金重)
(きんじゅう)
Tanto:Mumei(Kinju)
古刀・美濃 南北朝中期
第五十一回重要刀剣指定品
刃長:28.9(九寸六分強) 反り:0.3 元幅:3.14 元重ね:0.43 穴3
【コメント】
『正宗十哲』に名を連ねる美濃金重(無銘)重要刀剣短刀、志津兼氏と同様に、美濃鍛冶の源流を成した名工による、美濃相州伝の傑作です。
金重は、古来より『正宗十哲』に数えられる名工で、越前敦賀清泉寺の僧であったと云い、刀剣書『古今銘尽』によると、『法名を道阿、本国越前敦賀の住人、優れたる上手也。関に越して住。』とあるように、本国越前敦賀から美濃国関に移住し、志津兼氏と同様に美濃鍛冶の源流となった人物です。現存する在銘作は、短刀に僅か数振りあるのみ、太刀はありません。年紀作は貞治二年年紀の短刀と、小脇差しが残されていることから、その活躍期が、南北朝中期であることが分かります。短刀の造り込みは、身幅広く、重ね薄く、寸が延びて、三ッ棟のものが多く、地鉄は大板目、板目に地沸が良く付いて、地景が絡む出来と、板目に柾が交じって白ける出来とがあり、いずれもやや肌立ち気味となります。刃文は、沸出来で小湾れに小互の目が交じって、地に湯走りのある出来、 腰開き気味の互の目乱れで、砂流しが掛かって、飛び焼きの交じる出来、兼房乱れ風の互の目丁字乱れを、匂い勝ちに焼いた出来などがあります。
本作は三ッ棟で身幅広く、寸が延びて、重ね薄めで、僅かに反りの付いた、南北朝盛期の典型的な短刀姿を示しています。板目に杢目の交じる鍛えは、総体的に細かに肌立ち、地沸厚く付いて地景入り、淡く沸映りがたっています。互の目比較的に良く揃った焼き刃は、所々大互の目を交え、刃中良く沸付いて、互の目の沸足が繁く入り、焼き頭に烈しい金筋、砂流しが掛かっています。同じ美濃相州伝の志津兼氏に比して、焼き刃に尖り互の目ではなく、焼き頭に丸みを帯びた互の目が揃うのが金重風、彫り物に付いても、兼氏はあっても簡素な素剣、護摩箸程度、金重は複数入れる場合が多く、本作指し裏、護摩箸の上に刀樋を入れるあたりは、如何にも同工らしい手癖が見られます。
美濃相州伝の原点ここにあり、烈しい地刃の働きを見せる、美濃金重の典型且つ代表作、『正宗十哲』の名に恥じない優品、ズシリと重厚感のある、金無垢二重ハバキには、十六菊花紋が入っています