短刀 則重(無銘)
(のりしげ)
Tanto:Norishige(Mumei)
古刀・越中 鎌倉最末期 最上作
特別保存刀剣鑑定書付き
寒山先生鞘書き有り
刃長:24.3(八寸強) 反り:内反り 元幅:2.24 元重ね:0.59 穴3
【コメント】
則重は、五郎次郎と称し、佐伯姓を名乗り、鎌倉末期、越中国婦負郡(ねいぐん)呉服(現富山市五福付近)にて鍛刀したと伝わることから、呉服郷則重とも呼ばれます。古来より正宗十哲(現在では正宗、則重両名とも新藤五国光門人とされる)にもその名を連ねる、名工中の名工です。
在銘太刀は僅少、短刀の多い刀工でもあり、『日本一則重』の号で呼ばれる国宝の短刀を始め、重要文化財八口、重要美術品十一口の指定品がありますが、その六割が短刀です。
作風は、正宗に近似しますが、沸の変化に於いては、正宗以上に示したものが多く、特に太い地景交じりの大板目肌が、渦巻き状に肌立つ鍛えは『松皮肌』と呼称され、同工の代名詞にもなっています。これらの鍛えが刃縁、刃中に絡んで様々な働きを見せるのも大きな特色、刃文も刃中の太い互の目足、沸崩れ、砂流し、金筋など、沸の働きが豊富で、たとえ無銘であっても、他に紛れることがありません。
数少ない年紀作に見る活躍期は、延慶(一三〇八~一一)から正中(一三二四~二六)頃までとなっています。
本作は、無銘ながら『則重』の極めが付された優品、寸法八寸強、三つ棟で内反り、フクラの枯れた(切っ先に向けて身幅鋭くなること)姿は、則重短刀の典型的なスタイルです。
板目に大板目、大杢目、流れ肌を交えた精良な地鉄、直湾れ調の焼き刃は、刃縁沸付いて匂い深く、二重刃風の沸筋頻りに掛かり、刃中も金筋、砂流しが烈しく掛かっています。烈しい沸の働きと匂いに包まれて判然としない刃縁、上品に詰んだ美しい『松皮肌』等々、本来の則重らしさが随所に示されています。
探山先生鞘書きにも、『地刃共に沸の働きが夥(おびただ)しく織り成され、沸出来の妙を存分に発揮した出来は、同工に紛れのない優品也。』とあります。これで在銘なら大変です。
正宗を上回る鉄鍛えの名人、越中則重の『千変万化の沸の働き』を存分に堪能出来る名品です。